A:炎の申し子 アクラブアメル
帝国軍の補給部隊を襲う者と言えば、アラミゴ解放軍だと、相場が決まっている。と、言いたいところだが、実は違ってな……。
「アクラブアメル」と呼ばれる巨大なラーヴァスコーピオンが、幾度となく、補給部隊を襲撃しているんだ。
目的は魔導兵器の燃料、青燐水さ。青燐水を奪うたびに、アクラブアメルが吹く火炎は、熱量を増し、追撃の帝国軍部隊すら、返り討ちにする。そうして、さらに青燐水を手に入れるというわけさ。
~クラン・セントリオの手配書より
https://gyazo.com/0eed2c7a118d89805c32a06d773055b7
ショートショートエオルゼア冒険譚
巨大な爆発が起こった。
爆音の後、竜巻のような火柱が立ち上がる。同時に黒煙が四方に広がり、巻き起こった爆風が砂漠の砂を大量に撒き散らした。バラバラバラと雨のように砂が降り、黒煙が風に運ばれていく。あたしはそれが落ち着いたころ砂の丘からヒョコっと顔を出した。随分しぶとい奴でいつまでもいつまでも追い回されたあたしはしばらくジッと聞き耳をたてて周りを見渡し、動くものがないかを窺っていたが、今度はどうやら大丈夫そうだ。その場に立ち上がると背中やお尻に積もった砂を足元に落としながら洋服についた砂をパンパンっと叩き大きく息を吐いた。上着のポケットをひっくり返すと中にもしこたま砂が入っていて音を立てて流れ落ちた。
一通り砂を落とすとゆっくり砂丘の坂を降り始める。一歩踏み出すたびに足首まで砂に埋もれる。そのまま乾燥した砂丘を麓まで下りるとまだ煙を上げている「それ」を膝を抱えるようにして座ってしばらく眺めた。手に持っている杖の先端でツンツンと突ついたが全く動かない。
「ほら、あたしだってやればできるんだから」
あたしは鼻息荒げに声に出して独り言を言った。真っ黒に焦げ煙をあげる「それ」はその尾の先端までの長さが10mほどもある大蠍ラーヴァスコーピオン「アクラブアメル」だ。
いや、それにしても実に長い戦いだった。
アクラブアメルはどういうきっかけかは知らないが青燐水が大好物らしい。青燐水とは揮発性が高く着火性がまさに爆発的にいいことで様々なものの燃料として使われる。魔法を使えないガレマール帝国軍がそれに代わる力として開発した魔導兵器もこれを燃料としていて、そのためガレマール帝国軍の輸送部隊は毎回青燐水を大量に輸送するのだ。アクラブアメルはその度に帝国軍の輸送部隊を襲っては青燐水を強奪していた。アクラブアメルは体内に蓄積した青燐水を使って炎を吐くのだ。
吐いた炎の間合いは意外と広く、あたしが接近戦を嫌って距離を取れば炎を吐きかけてきて詠唱の時間を奪い、慌てて躱したところ目掛けて飛び掛かってきては間合いを詰め、鋭い爪や針のある尾で攻撃する。仕方なくあたしはまた走って逃げながら無詠唱で放てる魔法をや詠唱をカットできる魔法を駆使してアクラブアメルの体力をちまちまと少しづつ削りながらまた間合いを取る…この追いかけっこを延々と繰り返していた。
そうこうしているうちに当然といえば当然なのだが、あたしは飛び掛かってきたアクラブアメルのから強い青燐水の匂いがするのに気が付いた。もう体力的にも限界だったあたしは一か八かで思いついた攻撃を試すことにした。
飛び掛かってくると同時に鋏になった爪で薙ぎ払うアクラブアメルの攻撃を横っ飛びに躱すと、くるっと背を向けて走り出した。案の定アクラブアメルは火炎噴射器のように炎を吐いた。距離を保ちながら円を描くようにして横に走りながら迅速魔を唱えタイミングを待つ。アクラブアメルが炎を吐き尽くし、上を向くようにして大きく空気を吸い込む瞬間、あたしはファイジャを打ち込んでやった。アクラブアメルの真上に発生した超高温の炎が重力に引かれてアクラブアメルに降り注ぎ、息を吸い込むアクラブアメルの口へと吸いこまれた。あたしは横っ飛びで砂の丘の陰に飛び込んだ。これが思った以上にヒットだった。吸い込んだ超高温の炎はアクラブアメルがため込んだ青燐水に引火、その結果があの爆発だった。
鼻息荒げに独り言を言ってみたあたしだったが、疲れ切ってその場にへなへなと座り込んだ。
あたしが相方の休んでいる集落に帰り着いたのは陽がとっぷり暮れてからの事だった。集落の入り口に疲れ果て、砂と汗に塗れボロボロあたしが姿を現した途端、あたしが一人で行くことに猛反対して大喧嘩していたはずの相方が泣き顔を浮かべて駆け寄ってきた。
「よかった…無事で」
あたしは抱きついて来た相方にウンウンと頷いた。相方の腕の中は妙に落ち着いて、安心して、つい涙線が緩んだ。
「はやくラベンダーベッドに帰って休ませてあげたかったんだけど…やっぱり一人じゃだめだぁ。ごめんね」
相方は少し目を丸くして「もぉ」と言うと優しく微笑んだ。